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'10 05月26日 (水) 19時07分 : 書評「パラダイムの魔力」

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1日で読めて、きっと何かが変わりそうな気分になれる一冊を紹介させてください、「パラダイムの魔力―成功を約束する創造的未来の発見法」。1992年の本ですが、今読んでも面白いです(むしろもっと面白くなってるかも?)。元のタイトルは「Paradigms」、パラディグム?ではなく「パラダイム」と読みます。1つの商品がすべてを変えてしまったり、1つのブームが社会現象になって人の在り方を変えてしまったりするこの世界を読み解くキーワード・・・それが「パラダイム」です。

パラダイムという罠

ここに、面白い言葉があります。本書から以下に引用します(強調は引用者)。

「蓄音機に、商業的価値はまったくない」
トーマス・エジソン、1880年、自分の発明品について、助手のサム・インス ルに

俳優の声を聞きたいと思う人など、いるわけがない
ハリー・ワーナー(ワーナー・ブラザーズ社長)、1927年

世界で、コンピュータの需要は5台ぐらいだと思う
トーマス・J・ワトソン(IBM会長)、1943年

・・・おかしいですよね! 蓄音機(の原理)・音がついた映画・コンピュータは、現代では当たり前のように普及した技術であり、その商業的価値は圧倒的なものなのに、技術を開発を引っ張った当人たちがまったくその価値を分からずにいた訳ですから。

一方、著者は「こういったことは人類の歴史上何度も起こっている」と言います。どうにも、人はよくこういった罠に陥るように出来ているらしく、そこを紐解くのが「パラダイム」という考え方らしいんです。

著者はパラダイムをこう定義しています。

パラダイムとは、ルールと規範であり(成文化されている必要はない)、
(1)境界を明確にし、
(2)成功するために、境界内でどう行動すればよいかを教えてくれるものである。

・・・なんだか分からないですね(汗) この定義よりも、前述した3つの発言例を見てもらったほうがずーっと分かりやすいと思うんですが...明らかなのは、みんな「妙な思い込みをしてる」って事です。すごい価値のある技術なのに、それを理解できずにいる。それは何故かというと、今知っていて目の前に広がっている世界の常識に囚われてしまって、無意識的に限界を作ってしまっているからです。エジソンが「蓄音機なんて意味ないわい!」と言った1880年には、音楽をコンテンツとして売るなんて商売が成り立たなかったわけです。だから、意味がないとしか思えなかった

つまり、それほどに堅く人々に信じられている「世界の常識やものの考え方」のことをパラダイムと呼ぶのだ、と理解するのが良いでしょう。

パラダイムを知らなきゃ損をする?

今世界を支配している(ように見える)パラダイムに安住して世界の変化の兆候を見逃してしまうことで、数々の企業や産業が衰退したりチャンスを逃してきた様子を、著者は具体例で示します。例えば・・・

  • スイスの機械時計産業が、クォーツ時計の核となる技術の開発まで実現していたにも関わらず、結局日本の時計メーカーに駆逐された事例
  • コンピュータ界の巨人・IBMが、学生2人がはじめたAppleに市場を奪われた挙句、販売戦略まで変えざるを得なくなった事例
  • アメリカの自動車メーカービッグ3が20年かけても実現できなかったエアバッグ技術を、手榴弾メーカーが開発したにも関わらず、話すら聞かずに追い返してしまい、日本メーカーに技術で先行されてしまった事例

スイスの時計産業・IBM・ビッグ3は、パラダイムに囚われていたばかりに辛酸をなめました。このように、パラダイムを理解しなかったために機を逸してしまうことを本書では「パラダイム効果」と呼びます。一方、日本の時計メーカー・Apple・日本の自動車メーカーはパラダイムの変化を敏感に感じ取り、リスクを取ってパラダイム自体を変化させることに成功したと言えます。こういった現象を「パラダイムシフト」と呼びます。パラダイムは、それを乗りこなす者にはビッグチャンスにもなるし、乗りこなせない者は淘汰してしまう諸刃の概念なのですね。

唐突に、かつ僕らの常識を超えて移り変わっていくパラダイムの変遷をいかに予測し、活かすか? という問題意識が、本著の最大のメッセージです。

生き方としての「パラダイム」

本書は、以上のような具体的かつ鮮烈な事例を数多く挙げながら、パラダイムという概念とその有用性を強調します。また、以下のようなビジネス寄りのテーマも幅広く網羅しています。

  • パラダイムシフトを起こすのは、会社の中の誰か?
  • 日米の歴史に見る「総合品質管理(TQC)」のパラダイムシフト
  • 管理者(マネージャー)と指導者(リーダー)の違い
  • 近いうちに見込まれるパラダイムシフト

しかしながら、最後の最後で筆者はこういうのです。パラダイムという概念は決して企業や産業に限った話ではなく、個人個人がうちに秘めているものである、と。

パラダイムは、一種のルールや規範です。例えば「僕は家族を大事にする」といったような人生の指針もパラダイムのひとつだと言えます。家族を大事にすることは良いことだとは思いますが、例えば「○○な人って、どうも好かんなぁ」とか、「○○には興味がないし、下らないとすら思う」といったルールや規範を持ってしまうと、自ら殻を作ってしまって人生の楽しさの一部を味わえずにいるかもしれない事は想像に難くないでしょう。特に問題なのは、こういったルールや規範(≒思い込み)を、無意識的にしてしまう場合が多いということ。理性的で悪気が無い健全な心理状態であるにも関わらず、です。

本書は「パラダイム」という考え方についてまとめ、歴史上実際に起きた興味深いパラダイムシフトの事例を取り上げているビジネス書ですが、一方でその根底には「僕ら一人ひとりが深く考えるべきテーマとしてのパラダイム」というメッセージが流れています。僕らニンゲンなるものが、如何に愚かな存在であるか、また如何に自らの殻を打ち破って可能性の地名を切り開くことも出来る存在であるか。「パラダイム」という考え方は、ビジネスに留まることなく、僕やあなたのリアルな人生そのものを左右する考え方でもあるのです。

→Amazon「パラダイムの魔力」へ

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