
ビジネス書籍において、発売前に本の内容を時限的に公開するというマーケティング手法が最近流行っていますが、この本もその手法を取り入れて、3月10日午前11時まで無料で全文が公開されています。タイトルは「クラウド時代と<クール革命>」、筆者は角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦さん。角川といえば、人気アニメの動画をユーザが独自に編集した「MAD」と言われる動画に対してオフィシャルに許可を出す(本来であれば、著作権などの問題で削除を迫るのが著作権者の常)といったアグレッシブな戦略で有名ですね。そんな角川グループの会長さんが執筆したこの本では、2つのテーマが語られます。
「クラウド」と、「<クール革命>」なるものです。
<クール革命>
クール革命という言葉は角川さんの造語であり、知らなくて当然の言葉です。この言葉の意味を象徴する事例として、東京お台場でお披露目された実物大ガンダムを引き合いに出した上で、角川さんはこんな事を言うんですね。
- ガンダムをはじめ、アニメ・マンガ・ゲームなどの日本のサブカルチャーやコンテンツ産業は世界的に評価され「クール・ジャパン」と呼ばれ尊敬を集めている。
- 日本はガラパゴス化しているなどと言われるが、むしろそういった差異・個性化を生み出した土壌となったという意味で、ガラパゴス化を肯定すべきである。
- 文化のナンバーワンではなくオンリーワンを目指すことが日本の進むべき道である。
ふむ。これは特段反論するまでもない事かな、と思います。実際に日本の生み出すコンテンツは世界で受け入れられていますし、そんな個性を大事にしようぜ! というのなら、そりゃそうだと答えるのが普通でしょう。つまり、<クール革命>は、日本のコンテンツ産業はこのままやっていこう! という前向きなメッセージなんですね。
一方で、日本の危機とも呼べるIT業界(お役所言葉で、ICT:Information and Communication Technologyとも言いますね)の動向としてネガティブな状況を表すキーワードとして、もう一つの大事な言葉「クラウド」が登場します。
クラウド
クラウド・・・英語では「cloud」。雲、という意味ですね。クラウドコンピューティングなんていう言葉で表現されたりもしますが、これはどういう意味かと言いますと・・・一言で言えば「パソコンの処理も、ソフトも、サービスも、全部世界のどこかにあるデカイパソコンに肩代わりさせちゃいましょう」という仕組みのことを言います。
普通、家にパソコンを買ったりソフトを買ったりしますよね。でも、クラウドが広まった世界では、パソコンだって高性能なものを買う必要がないし、ソフトを買う必要もありません。なぜなら、計算処理もソフトによる処理も、全部インターネットの向こう側のどこかにあるらしい「デカイパソコン」がやるから、です。そのデカイパソコンは、世界のどこかの曖昧な場所にあって、どこにあるかは分からないけれど、とにかく全部やってくれます。インターネットの向こう側が雲に包まれていて、雲の中に「この計算をして!」「このアプリを立ち上げて!」「こんなサービスを提供して!」とボールを放り投げると、不思議と投げ返されてくる・・・そんな状況を例えて「クラウド(雲)」という表現をするわけです。
ここまでの話だけを読むと、「いいじゃん、それ。パソコンもソフトも買わなくて良いんでしょ?」となるかもしれませんが、よくよく考えると「世界中の何億台というパソコンを、世界の超デカイ何社かのクラウドが肩代わりする」→「パソコンの売上も、関連する産業も、ぜーんぶ超デカイ何社かが占領してしまう!」という未来を想像すると、ちょっと恐ろしくなりませんか? 時間も空間も簡単に飛び越えるインターネットという技術によって、IT業界の儲けが数社に集中してしまって他は全滅! なんていう事も、クラウドが一般化した未来にはあるかもしれないんです。だからこそ、筆者の方は「クラウド!クラウド!」と叫んでいるわけです。
本書では、こんなIT業界の潮流であるクラウドについて、日本がまったく追いついていないし、海外の巨大企業によって寡占化されることでさらにコンピュータやインターネットに関する財を日本は失ってしまうぞ、と強く警告されています。サーバ代、IT関連の研究開発とイノベーション、知的財産権、優秀な人材と組織・・・全部が海外に取られちゃうよ! というヤバゲな話です。
アップル・グーグル・アマゾンなどの企業を例に挙げながら、アグレッシブな戦略により壮絶な生き残り競争をしつつも来るべきクラウド時代への布石を着々と打ち続けている海外勢の様子が語られる部分は圧巻で、「あれ、これって、そんなにすぐ来る未来かい?」と疑問に思ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。それぐらい、クラウドという考え方はパソコンやインターネットについての考え方を大きく替えてしまうものなんですね(ビジネス書などでは、こういう風に「世の中の仕組みや考え方がガラッと変わってしまうことを「パラダイムシフト」なんて言ったりします)。
総評
日本は独自の「ジャパン・クール」と呼ばれるコンテンツを保持する一方で、クラウドの流れには乗り遅れている。そんな現状を平易な言葉で教えてくる本という意味で、この本には価値があると思います(200ページちょっとで、ペロッと読めますしね)。
ただ、なんというか、ところどころでドリーミーな話になってしまうのと、肝心の「クラウド」と「<クール革命>」がどう日本で結びついていくのかについての糊付け部分がポッカリ抜けているような感じがしたので、そこは消化不良感があるかもしれません。もしかしたら続刊が出るのかもしれません。とはいえ、とりあえず「日本と世界で起こっている、インターネット界隈の出来事をサックリ教えてもらえる入門書」としては十分楽しく読めると思いますので、ちょっと手に取られてみてはいかがでしょうか。
繰り返しになりますが、3月10日の午前11時までは、タダですからね。肝心のURLと、Amazonへのリンクを以下に示します。
- Newer: ああ寝坊
- Older: 吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」マッシュアップ・俺的ベスト7選+1




