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'09 01月31日 (土) 09時09分 : 面影ラッキーホールを聴け Vol.4 『あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて』

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ここ10年の日本のポップス界最大の収穫だと僕は思っているバンド・面影ラッキーホールの楽曲を掘り下げる当シリーズ4回目は、ダメな男の人生に舞い降りた奇跡を感動的に綴った面影ラッキーホールのマスターピースと言える作品『あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて』をご紹介します。

まずは、とにもかくにも歌詞の物語を簡単にまとめてみましょう。

  1. 主人公は不良の高校生。不良仲間の間での『女の話』を真に受け、『幼なじみのみちこ』を無理矢理犯してしまう。
  2. 一度の性交渉でみちこは妊娠、『俺みちこの父親に玄関で力いっぱい殴られたんだ』。
  3. 主人公はみちこを連れて駆け落ち、見知らぬ街で『俺設備やに就職し』『みちこスーパーでパート』で働き始めた。
  4. 『二十歳でみっつの子供抱えて』。
  5. 『「若いときに産んだ子はデキが悪いってね」「毎晩お盛んなんでしょうね」』と世間から罵られる言葉が、主人公とみちこを一人前の父親・母親にしはじめた。
  6. そんな二人をみちこの両親も認めはじめ、駆け落ちから5年たったある日に帰省。
  7. 義父は静かに主人公の子供を膝に抱え『「おじいちゃんだよ おじいちゃんだよう」』と涙を流す
  8. 『あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて』。

こんな物語が、5分14秒の曲の中に詰まっています。絶対に褒められるものではない事をした主人公が、世間から罵られつつも幼なじみの妻と生活を共にし、やがて両親に認められていく。ダメ人間が長い時間をかけて、少しずつ世界と邂逅していく。

主人公は、殴られた義父に対してもう一度頭を下げたりは難しいものだし、そもそも顔だって合わせたくないでしょう。義父にしたって、元々娘にひどいことをした男を許すことは、論理的に考えればできない事。しかしそんな両者の雪解けを間接的に実現させたのは、世間から放たれる冷たい罵詈雑言によって主人公の心が変わっていった事である点は非常に深いと思います。

若くして働く主人公や妻に対し、「若い頃に出来た子は・・・」「毎晩お盛ん・・・」なんて言うのは、悪意以外の何者でもありません。しかし、その悪意が主人公を結果的に叩き直す事になるんですね。昔は幼なじみを力ずくで自分のものにするような悪意にまみれていた主人公も、妻や子という守るべきものを持った今では、逆に悪意に耐えられるだけの強さを持っていたということになります。

やがて主人公と義父は、論理的な善悪を超えて和解します。注がれたビール、義母の作った煮物・・・そこにあるのはとびきりのご馳走ではありませんが、この一杯のビールと煮物を手に入れるために主人公がたどってきた道のりはあまりに不器用で、悪意の応酬にまみれ、人間臭いものでした。

更正するということ

古典落語の名作「芝浜」をご存じでしょうか。あらすじはこのようなものです。

  1. 酒ばかり飲んで働かない主人公は、嫁にせっつかれて仕事に出た早朝、大金の入った財布を拾う。
  2. 大金を持ってきた主人公は、酒と料理に贅を尽くした宴会を家に友人縁者を呼んで盛大に行い、そのまま寝込んでしまう。
  3. 翌朝、嫁は昨日と同じように主人公に仕事をせっつく。
  4. 「昨日拾った大金があるんだから働く事なんてない」と言う主人公に対し、嫁は「なんだい、その大金ってのは? 夢でも見たんじゃないのかい?」と嘘をつく。
  5. さらには、宴会をしたことは本当で、酒と料理の分だけ借金が増えたと上手く信じ込ませる。
  6. 改心した主人公は酒を断ち真面目に働き数年後、手に入れた自分の店で迎える年の暮れ、嫁は大金の入った財布を主人公に差し出す。
  7. 「長屋の大家に相談したら、拾った大金など使ったら命を狙われるか寄せ場(刑務所)送り。大金は夢だと旦那を騙し、拾った金は役人に届けろと言ったから、その通りにした。払い下げで大金は戻ってきたが、打ち明けられずにいた」と嫁。
  8. 涙を流し嫁を慈しむ夫に対し、殴られ勘当される心配をしていた嫁は気分が高まり、お酒を飲みたい、一緒に飲もうと言い出す。
  9. 主人公は快諾し酒を注がれるが、湯飲みを口の手前まで持って行ったところで手を止める。
  10. 「止そう。また夢になる。」

この物語では、酒ばかりで働かないダメ男が改心していく様子が描かれています。この話だって、主人公は論理的に考えたらダメ人間です。でも、そのダメ男が真面目に働き、立派に自らの店を持つまでに成長していく様子は、落語の聞き手である大衆に響きます。

一度ミソがついた人間、ダメな人間でも、更正できるとこの物語は言っています。より本質的に言えば、一度失敗した人間でも、その後しっかりと立ち直れば、世間は受け入れるだけの懐の深さがあるということです。

更正とはこういう事ではないかと思います。更正は、2つの立場の人間がいて初めて実現できることなんですね。

  1. ダメなことをした本人が立ち直る。(立ち直ることが可能である)
  2. 周囲の人が更正したダメ人間を受け入れる。(受け入れることが可能である)

しかも、上記2つのポイントが実現される時、そこでは論理的な思考は意味を成さない場合が多いことも特筆すべきことでしょう。面影ラッキーホールの『あんなに反対してた・・・』では、主人公・義父ともに互いの過去から論理的に現在の相手を推測していたら、会う気にもならなかったでしょう。古典落語の芝浜においては、大金を拾うという幸運を嘘だと騙され何年間も働き通しにさせた妻に対し、主人公は激昂することも出来たはずです。しかし主人公はそうしないことで、幸せを手に入れました。

ここには途轍もない人生に対する視座が示されています。

論理的に考えることだけでは、世界は幸せにはならない。

世の中は、言ってしまえばダメな人間の集合体です。頭が悪い人、怒りっぽい人、自分で物事を決められない人、お金に無頓着な人、エッチな人。体力が無い人、目・耳が弱い人、体臭のある人、見た目がブサイクな人、深刻な病を抱えている人。これらを論理的に考えて、「ダメなものはダメ」「悪いものは排除」と言ってしまったら、世の中は成り立ちませんよね。

だからこそ、人間は持って生まれた心、特に感情の部分を駆使して、世の中や自分が幸せになるように行動します。論理的に「この人はダメ人間である」と決めつけたり、分析したりするだけではなく、「性格キツイところもあるけど、とりあえず真面目だし」「顔はタイプじゃないけど、とにかくやさしいから」なんて具合に美点と欠点の折り合いを付けて生活をしているわけです。

今回の曲の物語は、論理的に物事を考える人や、自分には未来と希望が溢れていると感じている人にとっては、連帯しにくい部分があると思います。「ひどい事をした主人公に同情の余地は無い、こんな奴とは友達にもなりたくない」なんて言う人も、いるかもしれません。そんな人には申し訳ないのですが、僕はどちらかというと主人公側に連帯します。

だって、僕もダメ人間なところが多分にありますから。

そして、過去や感情をうっちゃって邂逅した主人公の義父が涙ながらに言う「おじいちゃんだよ おまえのおじいちゃんだよう」という言葉の力を、信じたいと思いますから。

ちなみに、この「おじいちゃんだよ・・・」の部分、楽曲では情感たっぷりにシャウトされています。聞き所です、グッと来ます、正直泣きました。是非、聴いて欲しいなって思います。今日の写真の通り、CD屋さんでは買いにくいジャケットでもありますし、下のリンクをポチッてみちゃって下さいませ。

iTunesですぐ買えます! リンクはこちら。

今回ご紹介した曲と同じアルバム『代理母』から、次回もお届けしたいと思います。タイトルは『必ず同じところで』。これまでとは一転して、ダメな女性のお話です。お楽しみに。

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